不動産相続にかかる税金の計算方法と控除制度
「親の土地や住居を相続したが、かかる税金はどれくらいになるのだろう?」「相続した土地や建物の評価額の算定方法は?」などという疑問をお持ちの方は多いでしょう。
被相続人の不動産や金融資産を引き継いだ場合、相続税を正確に算定し、必要な場合は相続税を納付しなければなりません。
また、相続税の算定をする前に、引き継ぐ土地や建物の評価額を正確に把握する必要があります。
土地や建物の評価額は、それぞれ算定方法・確認方法が異なります。
自分で評価額を調べる場合は、国税庁が公表している財産評価基準書等を確認する必要があります。
この記事では、相続した土地や建物の評価額の算定方法や、不動産の相続税を控除する方法などについて解説します。
相続した土地にかかる税金
相続した土地がどこに所在するかで評価額の算定方法は異なります。
相続した土地の評価額を算定する方法について説明します。
(1)土地の評価額の算定方法
相続した土地の評価額は「路線価方式」または「倍率方式」を使用して算定します。
- 路線価方式:路線価に基づいて土地を評価する方法
- 倍率方式:路線価が定められていないとき土地を評価する方法
どちらの方式で相続した土地を計算するのかについては、国税庁の公式サイト内の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」上で、所在地を確認すればわかります。
(2)路線価方式の計算方法
路線価方式は、土地が接している路線(道路)に設定されている路線価(国税庁が毎年7月に公表する路線ごとの1㎡あたりの金額)へ、地積(面積)等をかけて計算する方法です。
「相続税評価額=路線価×地積×補正率」で算定を行います。
補正率とは、使いにくい土地の形(例:奥行、不整形地、がけ地など)に合わせ、土地の評価額を下げるために乗じる割合です。
また、相続した土地に借地権が設定されているとき、アパート・マンションが建っている土地(貸家建付地)として利用されているときは、借地権割合も確認しなければいけません。
借地権割合を確認する場合、参考になるのが路線価の数字の横に付いているアルファベットです。アルファベットごとの借地割合は下表の通りです。
アルファベット | A | B | C | D | E | F | G |
借地権割合 | 90% | 80% | 70% | 60% | 50% | 40% | 30% |
他人のために利用されている土地であれば、借地割合も含め相続税評価額を算定しなければいけません。
具体例をあげて計算してみましょう。
- 路線価表示:300D(数字部分は路線価で土地1㎡あたり千円単位の金額)
- 土地の地積:150㎡
- 補正:無し
まず路線価表示300Dなので、相続した土地は1㎡あたり「300千円=300,000円」の価値です。
土地の広さは150㎡なので、次のような計算となります。
300,000円×150㎡=45,000,000円
相続した土地(自用地)の価額は4,500万円と評価されます。
一方、借地権が設定されていたなら、借地権割合も算定に加えなければいけません。
数字の横に付いているアルファベットを確認しましょう。「D=60%」なので次のように計算します。
4,500万円×60%=2,700万円
よって、普通借地権が設定されている土地の価額は2,700万円となります。
(3)倍率方式の計算方法
財産評価基準書をみても、土地の接する路線(道路)に路線価が明記されていないとき、倍率方式で計算します。
「相続税評価額=固定資産税評価額×倍率」で算定します。
固定資産税評価額に関しては、市区町村役場から送付される「固定資産税課税明細書(納税通知書)」で確認が可能です。
倍率の方は財産評価基準書で確認しましょう。
具体例をあげて計算してみましょう。
- 固定資産税評価額:3,500万円
- 評価倍率:1.1
固定資産税評価額3,500万円×評価倍率1.1=3,850万円
相続した土地の価額は3,850万円と評価されます。
相続した建物にかかる税金
建物の評価額を算定する場合は、市区町村役場から毎年送付される「固定資産税課税明細書(納税通知書)」の記載額を確認しましょう。
たとえば建物の固定資産税評価額が2,200万円と記載されていたなら、建物の評価額は2,200万円です。
なお、明細書が見つからないときは、市区町村役場から「固定資産評価証明書」(1通約400円)を取得して確認する方法もあります。
不動産の相続税を控除する方法
相続した土地や建物(不動産資産)は他の遺産(金融資産等)と合わせて、相続税を算定します。
相続税を算定するときは基礎控除制度や、一定の条件に合致すると利用できる控除制度で節税が可能です。
(1)相続税の基礎控除を行う
被相続人の土地や建物を相続したからといって、必ず相続税を納付しなければいけないわけではありません。
被相続人の生前の借金が残っている、葬儀費用がかかったという場合、相続財産の価額から負債や葬儀費用を差し引けます。
それに加え、法定相続人が利用できる相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)もあります。
具体例をあげて、相続税がいくらになるか算定してみましょう。
- 法定相続人:3人(被相続人の配偶者、子ども2人)
- 土地の評価額:2,500万円
- 建物の評価額:1,000万円
- 預金:1,500万円
- 借金:未返済分600万円
- 葬儀費用:300万円
被相続人の相続財産の価額は合計5,000万円であるものの、借金600万円が残り、葬儀費用は300万円かかっています。
まず相続財産の価額から借金・葬儀費用を控除します。
相続財産の価額5,000万円-(借金600万円+葬儀費用300万円)=純資産価額4,100万円
次いで純資産価額を相続の基礎控除でさらに差し引きます。
法定相続人は3人なので基礎控除額は次の通りです。
3,000万円+600万円×3人=基礎控除額4,800万円
純資産価額4,100万円-基礎控除額4,800万円=-700万円
このケースでは相続税が0円となるので、相続人が相続税を申告・納付する必要はありません。
(2)配偶者の税額の軽減を行う
「配偶者の税額の軽減」とは、被相続人の配偶者であれば相続で取得した遺産額が、次の金額のどちらか多い金額まで非課税となる制度です。
- 1億6,000万円
- 法定相続分相当額
本制度の適用を受けるためには、被相続人が死亡した事実を知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署に、次の書類を提出する必要があります。
- 相続税申告書:税額軽減の明細を記載、用紙は税務署で取得可能
- 被相続人・相続人の戸籍謄本(除籍謄本):市区町村役場で取得、1通450~750円
- 被相続人の住民票除票:被相続人の住所地の市区町村役場で取得、1通約200円
- 相続人の住民票:相続人の住所地の市区町村役場で取得、1通約200円
- 配偶者の取得財産がわかる書類:遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
- 印鑑登録証明書:遺産分割協議をした場合に必要、住所地の市区町村役場で取得、1通約200円
(3)小規模宅地等の特例を利用する
小規模宅地等の特例は、相続した土地の評価額が大幅に減額される制度です。
被相続人の住んでいた土地、事業・賃貸用で所有していた土地が対象となります。
一定の要件を満せば評価額の50〜80%が減額可能です。宅地の使用目的が被相続人の居住の利用(特定居住用宅地等)であったときは、330㎡以内(限度面積)で80%が減額割合となります。
一方、宅地の使用目的が事業であったときは下表の通りです。
使用目的 | 限度面積 | 減額割合 |
・貸付事業以外の事業用(特定居住用宅地等) | 400㎡以内 | 80% |
・法人に貸付、当該法人の事業(貸付事業を除く)用:特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡以内 | 80% |
・法人に貸付、当該法人の事業(貸付事業を除く)用:貸付事業用宅地等 | 200㎡以内 | 50% |
・法人に貸付、当該法人の貸付事業用(貸付事業用宅地等) | 200㎡以内 | 50% |
・被相続人等の貸付事業用(貸付事業用宅地等) | 200㎡以内 | 50% |
特例の適用には、配偶者を除き、基本的に被相続人との同居が条件となるので注意しましょう。
特例を受けるためには、被相続人が死亡した事実を知った日の翌日から10か月以内に、被相続人の住所地を管轄する税務署へ、次の書類を提出する必要があります。
- 相続税申告書
- 被相続人・相続人の戸籍謄本(除籍謄本)
- 被相続人の住民票除票
- 相続人の住民票
- 遺言があるとき:遺言書の写し
- 遺産分割をしたとき:遺産分割協議書の写し・印鑑証明書
不動産を相続した後にかかる税金
被相続人の土地・建物を相続人が引き継いだときや、それ以後も税金が課されます。
ここでは、相続した土地・建物の所有・売却に関する税金について説明します。
(1)相続した不動産を所有するときにかかる税金
相続した不動産の相続登記を行うときは、引き継いだ相続人に「登録免許税」が課せられます。
登録免許税は相続不動産の固定資産評価額に0.4%の税率をかけ算定します。
たとえば、相続不動産の固定資産評価額が2,000万円の場合は次の通りです。
固定資産評価額2,000万円×税率0.4%=8万円
登録免許税は8万円となります。
以後、相続した不動産を所有するときは、「固定資産税」「都市計画税」が課税されます。
- 固定資産税:固定資産の所有者に課される市町村税、税率は約1.3〜1.4%
- 都市計画税:都市整備等の費用に充てるための目的税、税率は約0.1〜0.3%
市町村役場から納税通知書が送付され、年4回分を各納期限までに納付しなければいけません。
(2)相続した不動産を売却するときにかかる税金
相続不動産を売却して売却益が出た場合、「譲渡所得」となり、所得税・住民税の納付が必要です。
なお、所有期間が5年以下か5年を超えているかで税率も変わってきます。
- 短期譲渡所得(譲渡年の1月1日現在で所有期間5年以下):課税短期譲渡所得金額×(所得税30%+住民税9%)
- 長期譲渡所得(譲渡年の1月1日現在で所有期間5年超):課税短期譲渡所得金額×(所得税15%+住民税5%)
短期・長期譲渡所得いずれの場合も、2037年まで所得税額に対し復興特別所得税2.1%が課せられます。
まとめ
相続した土地や建物の評価額の算定方法や、不動産の相続税を控除する方法などについて解説しました。
相続した土地や建物の評価額は、それぞれ算定方法・確認方法が異なります。
相続税の計算は、正確かつ慎重に行いましょう。
相続した土地や建物の評価額の計算が難しい場合や、正しく計算できているか不安な場合は、税の専門家である税理士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。