田舎の実家を相続するべき?活用方法や処分方法を解説
「田舎の実家を相続するかどうか迷っている」「田舎の実家を引き継いだら、どのような活用法があるのだろう?」などと悩んでいる方々は多いでしょう。
家族との思い出が詰まった田舎の実家を残したいという気持ちが強くても、無理に維持しようとすれば、重い負担に苦しむ可能性があるので慎重に判断することが大切です。
この記事では、田舎の実家を相続した場合のメリットとデメリット、活用方法や処分方法などについて解説します。
田舎の実家を相続した場合のメリット・デメリット
田舎の実家を相続すれば、家族の思い出の詰まった土地や建物が残せる反面、維持・管理に関する重い負担や放置されるリスクも想定されます。
田舎の実家を相続する際は、メリットとデメリットのどちらが大きくなるのか、よく検討しておきましょう。
(1)実家を相続するメリット
実家を相続すれば、思い入れのある実家を手放さずに済みます。
田舎の実家を引き継げば、節税になる他、実家の活用を検討している人には大きなメリットとなるでしょう。
小規模宅地等の特例を利用できる場合は、実家の建つ土地の評価額(上限:面積330㎡まで)を80%減額できます。
また、相続人であるご自身が賃貸物件に住みながら家賃を支払っている状況なら、引き継いだ実家に引っ越せば住居費の節約になるケースもあるでしょう。
実家が自分の職場や、子どもの学校からの距離が近い立地ならば、生活の不便を感じずに住み替えが可能です。
なお、実家が遠く離れていても賃貸物件として貸し出せば、収入を得られる場合があります。
(2)実家を相続するデメリット
実家を相続すると、外壁塗装・水回り設備の交換等の維持・修繕に関する費用がかかるのはデメリットといえます。
特に築年数を重ねた実家は損耗が目立つ場合もあるでしょう。無理に維持・修繕すれば、重い負担となる事態が想定されます。
また、田舎の実家が離れた場所にあり、利用する機会もなければ放置される傾向があります。
放置により発生し得るトラブルは次の通りです。
- 放置した建物の倒壊により近隣住民が被害を受け、損害賠償を請求された
- 不法投棄や不審者の住処となり、犯罪の温床となってしまった
- 「特定空家」に指定されてしまった
特定空家とは、「空家等対策特別措置法」(2015年施行)に基づいた制度です。
田舎の実家が特定空家に指定されると、固定資産税の納付金額が6倍にあがり、最終的に行政代執行により解体されてしまうおそれがあります。
当然、行政代執行の費用も建物の所有者が支払わなければいけません。
田舎の実家を持て余している、または持て余す可能性が高いと感じたら、何らかの方法で処分する必要があるでしょう。
田舎の実家を活用する方法について
相続した田舎の家や土地を残しつつ、有効活用する方法もあります。そのまま活用する方法と、賃貸として活用する方法を紹介します。
(1)活用法その1・相続した田舎の家や土地をそのまま活用する
相続人本人が、引き継いだ田舎の家や土地をそのまま活用できるか検討してみましょう。
たとえば被相続人の農業経営に関心があり経営を引き継ぐ場合、被相続人の家や農地はもちろん、農機具・農業用設備を購入する必要もなく農業に従事できます。
被相続人の農業を手伝ってきた相続人の場合、農業未経験から開始するわけではないので、被相続人から得た農作業のノウハウを活かし、安定した農業経営を行えることでしょう。
なお、農地を相続したら、地元の農業委員会に届出書(農地法第3条の3第1項の規定による届出書)の提出が必要です。
(2)活用法その2・相続した田舎の家や土地を賃貸する
引き継いだ実家は取り壊したくないものの、離れた場所にあり利用する機会がないときは、家や土地の賃貸を検討してみましょう。
風光明媚な場所に実家があったり、人気のある地域に実家があったりする場合、古民家賃貸として貸し出せば、すぐに借り手がつく可能性もあります。
ただし、貸し出すためには次のような確認が必要です。
- 古民家の耐震性能は十分か
- 物件の外壁は傷んでいないか
- 屋内で断熱材の設置や壁クロス、床材の貼り替えは必要か
耐震性能が十分でないなら適切な補強を行い、家の外壁や室内環境に問題があれば修繕・リフォームを行わなければいけません。
まずは古民家再生に実績の豊富な不動産会社等へ相談し、調査を依頼してみましょう。
田舎の実家を処分する方法
ケースによっては「遺産が田舎の実家しかなかったので、やむを得ず引き継いだものの、使い道がなく困っている」という状況が想定されます。
また、「田舎の家や土地を相続しても負担になるばかりなので、相続したくない」と考える人もいることでしょう。
相続した田舎の家や土地を処分する方法、相続が開始されたら相続放棄を行う方法について説明します。
(1)処分法その1・相続した田舎の家や土地を処分する
田舎の家や土地を処分する方法はさまざまです。田舎の実家が唯一の遺産で、相続人でどのように分配するか困っている、誰も家や土地を相続したがらないというときは、処分を工夫する必要があるでしょう。
①田舎の家や土地の売却を検討する
遺産が不動産のみで、相続しても実家を持て余したり、複数の相続人で分割が困難だったりしたときは、不動産売却を検討しましょう。
家や土地を売却できたら現金が得られ、複数の相続人で平等に分割も可能です(換価分割)。次のような方法で売却を進めてみましょう。
- 田舎の家→不動産会社に売却を相談する、空き家バンクに登録する等
- 土地・山林→不動産会社に売却を相談、山林ならば森林組合への相談や山林バンク(全国の山林売買のマッチングサイト)の利用で買主を探す
なお、空き家バンクは各地方自治体がホームページで紹介しており、市区町村窓口で物件登録の申し込みができます。
②田舎の土地は国に引き取りを申請できる
田舎の土地を相続しても管理が難しい場合や、買い手が現れるか不安な場合は、2023年4月に創設された「相続土地国庫帰属制度」を利用しましょう。
相続土地国庫帰属制度は、相続した土地の所有権・管理責任を国が引き取る制度です。
本制度を利用したい場合、土地相続人が土地を管轄する都道府県の法務局・地方法務局に、承認申請(窓口または郵送)を行います。
法務局の窓口で担当職員と相談し、申請条件・負担金の額等を確認しつつ、手続きを進めていきましょう。手続き完了までには半年〜1年程度かかる可能性があります。
(2)処分法その2・田舎の家や土地を相続したくないなら相続放棄
相続が開始されたとき、家庭裁判所に「相続放棄」を申述する方法もあります。
相続放棄は被相続人の遺産を受け取らず、債務も返済しない方法です。家庭裁判所が相続放棄の申述を認めた場合、申述人は被相続人の権利や義務を一切受け継ぎません。
申述の流れは次の通りです。
- 申述人(相続人)が相続開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所へ申述する
- 約2週間経過後、家庭裁判所は申述人に照会書を送付
- 申述人は照会書の質問事項に回答、家庭裁判所へ返送
- 家庭裁判所による審理開始
- 家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送付
申述後、相続放棄申述受理通知書が届くまで1〜2か月程度かかります。
なお、相続放棄後は申述人以外の相続人が、田舎の実家をどうするか検討することになるでしょう。
また、次順位の法定相続人が繰りあがる可能性もあります。
他の相続人とトラブルにならないよう、相続放棄前によく話し合っておく必要があります。
遺産が田舎の実家である場合の注意点
田舎の実家を相続するときは、注意しなければいけない点がいくつかあります。
相続人が複数いる場合は実家の承継や処分について決め、忘れずに相続登記の手続きも進めていきましょう。
(1)相続人間で田舎の実家をどうするか慎重に話し合う
相続人が複数いるならば遺産分割協議を行い、実家をどうするのか慎重に話し合いましょう。
遺産分割を行うとき必ずしも平等に分ける義務はないものの、相続人全員が納得しなければ、将来、相続人間でトラブルが起こる可能性もあります。
田舎の実家の主な分割方法は次の通りです。
- 被相続人の実家を残したい、預金等の遺産もある:実家は相続人の誰かが引き継ぎ、他の相続人は預金等を分割する
- 遺産は被相続人の実家しかないものの、実家は処分したくない:実家を相続人の誰かが引き継ぎ、他の相続人には相当額の金銭を支払う
- 誰も実家は引き継ぎたくない:実家を売却し、得られた利益を分割する
遺産分割で揉めそうなときは、前もって相続に詳しい弁護士等の専門家へ相談してみましょう。
(2)相続登記の義務化に要注意
全国各地に多数存在する所有者不明土地の解消と、その発生を抑制するため、相続登記の義務化が決定されました。
相続登記の義務化の内容・罰則、登記手続きの期限を経過しそうなときの対応方法について解説します。
①相続登記の義務化の内容・罰則
田舎の実家を放置すれば、家や土地を引き継いだ相続人がペナルティを受けるおそれがあるので注意しましょう。
相続登記は2024年4月1日から義務化されて、登記手続きの期限や、義務に違反したときの罰則も明記されました。実家を相続した時期に応じて、登記手続きの期限は異なります。
- 実家を2024年4月1日以前に相続し、未登記である:原則として2024年4月1日から3年以内
- 実家を2024年4月1日以降に相続した:相続で不動産取得を知った日から3年以内
正当な理由がないにもかかわらず登記(名義変更)手続きをしないと、10万円以下の過料が課せられてしまいます。
②登記手続きの期限を経過しそうなときの対応
田舎の家や土地をどのようにするか、相続人の間で揉めてしまい、遺産分割協議が長期化する可能性もあるでしょう。
登記手続きの期限を経過しそうなときは、「相続人申告登記制度」を利用します。相続人申告登記を行えば、ひとまず相続人の義務を履行したものとみなされます。
手続きの際は法務局に申出書・戸籍謄本等を提出する必要があります。
申請が受理されたら、登記官が申出人(相続人)の住所・氏名等を職権で登記記録に登記します。
ただし、相続人申告登記をしても申出人が実家を売却できない他、遺産分割協議の成立時から3年以内に正式な実家の相続人が登記手続きを済ませなければなりません。
まとめ
田舎の実家を引き継ぐか処分するかは相続人次第です。
しかし、田舎の実家をどのように活用するかよく検討しておかないと、想定外の負担やトラブルに発展するおそれがあります。
実家の相続に関して不明点・疑問点がある場合は、速やかに専門家へ相談することをおすすめします。