相続人と連絡が取れない!想定されるリスクや対処法を解説
相続が発生し、遺産分割協議を行いたいのに「一部の相続人と連絡が取れない」「協議の申し出を無視している相続人がいる」などと悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続人全員が揃わない遺産分割協議は無効となるので、相続人と連絡が取れないままでは、相続手続きが進まなくなります。
円滑に相続を進めるには何らかの対応が必要となります。
この記事では、相続人と連絡が取れない場合や無視されている場合のリスクと、その対処法について解説します。
遺産分割協議には相続人全員の参加が必要
相続人が被相続人の遺産をどのように配分するか決めるとき、遺産分割協議を開きます。
遺産分割協議を行う場合は、相続人全員の参加が必要です。
(1)遺産分割協議とは
遺産分割協議とは相続発生時、相続人全員で遺産分割について話し合い、合意する手続きです。
遺産分割協議は相続人が複数人いる場合に行われます。相続人が1人しかいない場合や、相続人が配偶者・子どもの2人だけで簡単に分割できる場合なら遺産分割協議は不要です。
遺産分割協議を行い、遺産分割の取り決めに相続人全員が合意したら、「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書を作成したら相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。
遺産分割協議書は相続人分を作成し、印鑑登録証明書も添付したうえで、相続人全員が1通ずつ所持します。
遺産分割協議書は被相続人の預金の名義変更・払い戻しや、不動産の名義変更、相続税の申告等に必要です。
被相続人が遺言書を残しているときは遺言内容に従い、遺産を分ける方法が一般的です。
ただし、被相続人が遺言書で遺産分割を禁じていたとき以外は、相続人全員の合意で遺産分割協議を行ってもかまいません。
(2)連絡が取れない相続人抜きで遺産分割協議をしてもよいか?
遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないため、連絡が取れない相続人抜きで行った遺産分割協議は無効です。
ただし、同じ協議の場に相続人全員が集まらなくとも、柔軟に合意を図る方法もあります。
例えば相続人全員が集まれないとき、オンライン上で協議をしたり、電話や書面のやり取りで協議したりして、協議内容に相続人全員が納得すれば、有効な遺産分割協議となります。
この場合は、遺産分割協議書の署名・実印の押印も、郵送で順番に回していく等の方法で対応するとよいでしょう。
一方、遺産分割協議をしたくとも相続人の一部と連絡が取れない場合や、協議の申し出を無視している相続人がいる場合、相続手続きは進まなくなる可能性があります。
相続人と連絡が取れない状態が続いた場合のリスク
相続人の一部と連絡が取れない、相続人が協議の申し出を無視しているという場合、遺産分割協議が行えない状態となります。
遺産分割協議の期間は法定されていないものの、遺産相続で相続税が発生する場合、相続税申告期限(相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内)までには、協議を終えた方がよいです。
相続人と連絡が取れず、遺産分割協議が行えない状態が続いた場合のリスクについて説明します。
(1)被相続人の預貯金が払い戻せず、不動産が放置されてしまう
被相続人の預金の名義変更・払い戻しや、不動産の名義変更には遺産分割協議書が必要です。
遺産分割協議が終了するまではそれぞれ以下のような状態となります。
- 被相続人の預金:被相続人名義の口座が凍結され、払い戻しができない
- 被相続人の不動産:相続人全員の共有財産となる
金融機関に遺産分割協議書を提示しないと、基本的に預金の名義変更・払い戻しはできないので注意が必要です。
ただし、「相続した預金の仮払い制度」を利用すれば遺産分割協議書がなくとも、預金の一部を引き出し、被相続人の入院費用や葬儀費用の支払いが可能です。
遺産分割協議がまとまらないままでは、誰が被相続人の不動産を相続するのか決められない状態となります。
また、相続人全員の合意がない以上、不動産の売却もできません。
(2)遺産が無断使用されたり売却されたりするおそれもある
遺産分割協議が進まなければ、被相続人が所有していた不動産などが放置される場合もあるでしょう。
被相続人が所有していた土地や建物、貴重品等の管理が難しくなり、親族や第三者が無断で土地や建物を使用している、貴重品を勝手に売却されてしまったなどという事態が想定されます。
相続人同士で不信感が募り、深刻なトラブルに発展するおそれがあるので注意しましょう。
(3)相続税が発生する場合、特例や控除を受けられない
相続開始後、相続税を申告・納付する必要がある場合、相続税の申告期限内に遺産分割協議を完了しないと、原則として相続税の特例や控除が受けられません。
例えば、以下の特例や控除を利用するには、遺産分割協議書(写し)が必要です。
- 小規模宅地等の特例:遺産相続の対象となる宅地評価が最大80%減額される特例
- 配偶者控除(配偶者の税額の軽減):1億6,000万円と配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額まで非課税となる制度
遺産分割協議で分割内容を決めていないからといって、相続税の申告を遅らせるわけにはいかないので、相続人が法定相続分で相続したと仮定して申告します。
その際、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割協議を行う見込みがあれば、相続税の申告書にあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」の提出が可能です。
分割見込書を提出しておけば、相続税の申告期限を経過しても、小規模宅地等の特例や配偶者控除の適用を受けられます。
連絡が取れない相続人への対処法
遺産分割協議を行うとき、連絡の取れない相続人がいる場合、以下のような対応を検討しましょう。
- 専門家から連絡が取れない相続人を調査してもらう
- 裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行う
- 裁判所に失踪宣告の申立てを行う
それぞれの対応について説明します。
(1)専門家から連絡が取れない相続人を調査してもらう
士業専門家(弁護士・司法書士・行政書士等)に相続人の調査依頼が可能です。
連絡の取れない相続人がいる場合、他の相続人が知人に連絡先を聞いたり、住所を特定したりして調査ができます。
ただし、被相続人の葬儀の準備に追われている、仕事が忙しいという理由で、調査に手が回らない場合もあるでしょう。
士業専門家であれば相続人の戸籍謄本等を収集し、連絡が取れない相続人の住所を調査できます。
住所がわかったら自宅を訪問したり、郵送で通知したりして遺産分割協議への参加を求めましょう。
(2)裁判所に不在者財産管理人選任の申立てを行う
連絡が取れない相続人の戸籍の附票や住民票等を請求できないとき、住所地が判明しても不在のままというときには、家庭裁判所に「不在者財産管理人選任」申立てを行いましょう。
選任された不在者財産管理人が家庭裁判所の権限外行為許可を得れば、連絡が取れない相続人に代わり遺産分割協議へ参加できます。
不在者財産管理人選任の申立てを行う人は利害関係人(相続人等)です。
申立ては不在者の従来の住所地や居所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立てに必要な書類は不在者財産管理人選任申立書の他、不在者の戸籍謄本や不在者の戸籍附票、不在の事実を証する資料、収入印紙800円分・連絡用の郵便切手等が必要です。
(3)裁判所に失踪宣告の申立てを行う
連絡の取れない相続人が行方不明になってから7年も経過している場合(普通失踪)は、家庭裁判所に「失踪宣告の申立て」を行うことも可能です。
震災等で行方不明になった場合は、1年で申立てが可能です(特別失踪)。
失踪宣告が認められると、失踪者(連絡の取れない相続人)は法的に死亡したとみなされ、失踪者を除いた相続人の間で遺産分割協議ができます。
失踪宣告の申立てを行う人は利害関係人(相続人等)です。
申立ては不在者の従来の住所地や居所地を管轄する家庭裁判所に行います。
申立てに必要な書類は、家事審判申立書(失踪宣告申立書)の他、不在者の戸籍謄本や不在者の戸籍附票、失踪を証する資料などです。
また、収入印紙800円分・連絡用の郵便切手・官報公告料4,816円等も必要です。
連絡を無視する相続人への対処法
相続人の連絡先や住所がわかっても、遺産分割協議の連絡を無視されたままでは、相続手続きが進みません。
専門家に交渉を依頼したり、遺産分割調停・審判の申立てを行ったりして対応しましょう。
(1)専門家に説得を依頼する
相続手続きが思い通りに進まないときは、士業専門家(弁護士・司法書士・行政書士等)に相談が可能です。
遺産分割協議や相続人間の交渉を任せたい場合は、弁護士にサポートを依頼しましょう。
相続問題に詳しい弁護士であれば、遺産分割協議に応じない相続人をうまく説得し、協議参加の同意を得られる場合があります。
(2)裁判所に遺産分割調停・審判の申立てを行う
連絡を無視している相続人がいれば、家庭裁判所に「遺産分割調停」の申立てが可能です。
申立てが受理されれば、家庭裁判所は当該相続人に呼び出し状を送付し、調停による話し合いを促します。
申立ては共同相続人等が行い、相手方のうち一人の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に申立てましょう。
申立ての際は、まず遺産分割調停申立書に必要事項を記入します。
その他、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍)、相続人全員の戸籍謄本および遺産に関する証明書、収入印紙1,200円分・連絡用の郵便切手等が必要です。
なお、遺産分割調停で和解できなかったときは、自動的に「遺産分割審判」が開始されます。
審判では遺産分割に関する諸事情を考慮して、裁判官が判断を下します。
まとめ
相続人と連絡が取れない場合や無視されている場合は、何らかの対応をとらないと、遺産分割協議が進められません。
相続人だけで問題を解決することが難しい場合、士業専門家に相談すれば、有益なアドバイスやサポートを得られます。
一部の相続人の自主的な参加が見込めないときは、弁護士に交渉を任せたり、遺産分割調停・審判で解決を図る方法も検討するとよいでしょう。