農地の相続に必要な手続きは?注意点も解説

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農地 相続

相続発生後、「農地を相続して引き継ぐことになったが、手続きがよくわからない」「農地を相続しても、その土地を持て余してしまう」と、悩む相続人は多いことでしょう。

農地は食料の安定供給に関係するので、不動産の中でも特殊な扱いとなっており、相続の際は各市町村に設置している農業委員会への届出も必要です。

この記事では、農地相続の方法や必要な手続きについて解説します。

農地相続はどのように行うのか?

農地相続の場合も基本的に他の遺産と同様、誰が引き継ぐのかを遺言書による指定または遺産分割で決めていきます。

(1)被相続人の遺言書がある場合

被相続人が亡くなった(相続開始)場合、遺言書の有無を確認しましょう

もちろん葬儀・埋葬の他、市町村などの関係機関へ死亡に関する届出を提出した後でも構いません。

遺言書があれば自筆証書遺言の場合、基本的に遺言者の最後の住所地の家庭裁判所へ「検認」申立てが必要です

なお、法務局において保管されている自筆証書遺言や、公正証書遺言であれば検認は不要です。

遺言書の内容を確認し、農地を誰が相続するのか指定されていれば、基本的に指定された相続人が引き継ぎます。

ただし、農地を引き継ぐのが嫌なときは、相続人全員の同意のうえで遺産分割協議による話し合いをしても構いません。

(2)被相続人の遺言書がない場合

相続開始後、探しても遺言書が見つからなかった場合は、相続人全員で「遺産分割協議」を行いましょう

農地の他に遺された財産をどのように分けるのか、相続人全員で慎重に話し合います。

遺産分割の内容がまとまったら「遺産分割協議書」の作成を行います。

第三者からみて有効な遺産分割協議書と認められるためには、遺産分割内容の正確な記載および相続人全員の署名・押印が必要です。

ただし相続人が非常に多く、相続人分の遺産分割協議書の作成が難しいならば、相続人全員の署名・押印後の原本をコピーし、各相続人に配布する方法もあります。

農地相続の流れについて

農地相続は通常の不動産相続とやや異なり、相続手続きを進めるとき農地の相続登記(名義変更)の他、「農業委員会への届出」を済ませなければいけません。

農地相続は基本的に次のような流れで進めていきます。

  1. 遺言書の確認や遺産分割協議を行う
  2. 農地の相続登記(名義変更)
  3. 農業委員会への届出
  4. 相続税を申告する

それぞれのステップをみていきましょう。

(1)ステップ1:遺言書の確認や遺産分割協議を行う

被相続人の遺言書があれば農地の相続人は誰かを確認し、遺言書がない場合は遺産分割協議で農地の相続人を決めます。

被相続人の遺言書や相続人全員で作成した遺産分割協議書は、次のステップである農地の相続登記(名義変更)、農業委員会への届出、相続税申告の際に必要となります

遺言書・遺産分割協議書は各ステップに移行しても、添付書類としてスムーズに提出できるよう、大切に保管しておきましょう。

(2)ステップ2:農地相続には相続登記(名義変更)が必要

農地の相続人を決めたら、農地の相続登記(名義変更)に移りましょう。

民法・不動産登記法の改正により、2024年4月から相続登記が義務化されており、農地の相続人は、その取得を知った日から3年以内に手続き申請が必要です

一方、2024年3月31日以前に未登記である場合は、相続登記の義務化から3年以内が申請期限となります。

正当な理由がないにもかかわらず、期限内に登記申請をしなかった場合、10万円以下の過料を課せられる可能性があるので注意しましょう(不動産登記法第164条第1項)。

相続登記は農地の所在地を管轄する法務局に申請します。申請方法は窓口・郵送・オンラインいずれでも可能です。

申請前に、登記申請書や被相続人・相続人に関する書類等を準備します。下表を参考にしてください。

書類等 取得方法 手数料
登記申請書 法務局窓口・ホームページで取得。 -

被相続人の戸籍謄本

(改製原戸籍、除籍謄本)

被相続人の出生〜死亡までの戸籍謄本等、被相続人の本籍地の市区町村役場で取得。 1通450~750円
被相続人の住民票除票 被相続人の住所地の市区町村役場で取得。 1通200~300円

戸籍謄本

(相続人全員)

相続人の本籍地の市区町村役場で取得。遺言書で不動産を引き継ぐ者が指定されていれば、農地相続人の戸籍謄本だけで足りる。 1通450円

住民票

(相続人全員)

相続人の住所地の市区町村役場で取得。ただし、次のようなケースでは農地相続人の住民票だけで良い。

・遺産分割協議で農地の相続人を決定

・遺言書で農地の相続人が指定されている

1通200~300円

印鑑登録証明書

(相続人全員)

遺産分割協議を行ったときに必要。相続人それぞれの住所地の市区町村役場で取得。 1通200~300円
固定資産評価証明書 農地の所在地の市区町村役場で取得。 1通200~300円
収入印紙 3万円以下の登録免許税を納付する際、収入印紙での納付が可能。収入印紙は登記申請書に貼付。法務局・郵便局・コンビニ等で取得できる。 3万円以下の場合
納付書 金融機関または税務署で登録免許税を納めたとき受け取った書類。  
その他

・被相続人が遺言を作成していた場合:遺言書

・遺産分割を行った場合:遺産分割協議書

・代理申請する場合:委任状

 

登記申請時、登録免許税(固定資産税評価額×0.4%)も納付する必要があります。

(3)ステップ3:農業委員会への届出が必要

相続登記後、今度は相続した事実を農業委員会に届け出なければいけません(農地法第3条の3)

届出の期限は相続開始を知った日から10か月以内であり、期限を過ぎたり虚偽の届出をしたりすると、10万円以下の過料を課される可能性があるので注意しましょう。

農地の住所を管轄する農業委員会(市区町村役場に設置されている場合がほとんど)に届け出ます。

届け出るときは次の書類を提出します。

  • 届出書:農業委員会の窓口・市区町村役場ホームページから取得可能
  • 農地の権利取得を確認できる書類:農地の名義変更後の登記事項証明書(法務局から取得:1通480~600円)、公正証書遺言書の写し、遺産分割協議書の写しなど
  • 印鑑
  • 委任状:代理人をたてる場合

農業委員会への届出自体に手数料はかかりません。

(4)ステップ4:相続税を申告する

被相続人の遺産を確認する中で、相続税がかかるとわかった場合は被相続人の住所地を管轄する税務署に、相続税申告書等を提出し税金も納付します。

相続税の申告期限は、被相続人の亡くなった事実を知った日の翌日から10か月以内です

ただし、課税価格の合計額(正味の遺産額)が相続税の基礎控除額を下回る場合、相続税申告・納付は不要です。

なお、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。

農地相続の注意点

農業と無関係の相続人(給与所得者など)が農地を引き継ぐときは、注意しなければいけない点があります。

ここでは注意点と対応策について説明します。

(1)農業をしない人の農地相続はトラブルとなるケースがある

「自分が都心でサラリーマンをやっているのに、遺言書で農地の相続人に指定された」「遺産分割協議中だが、誰も農地を相続しようとしない」というケースが該当します。

農業をする予定がない場合や、農地を相続しても持て余してしまうという場合は、次の対応策を検討してみましょう。

  • 相続放棄を行う:被相続人の遺産が農地しかないなどのケースで有効。家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、相続する権利・義務を一切放棄する方法。
  • 相続土地国庫帰属制度を利用する:相続人が引き継いだ農地の所有権・管理責任を国が引き取る制度。土地管理費相当額の負担金(10年分)の納付が必要。
  • 農地の売却や賃貸を行う:農業をしたい人に売却や賃貸する。ただし、農業委員会の許可が必要。

いろいろな対応策があるものの、相続放棄をすれば他の遺産が受け取れず、相続土地国庫帰属制度を利用すれば20〜100万前後の負担金がかかります

また、農地の売却や賃貸には前もって農業委員会の許可が必要な他、なかなか買い手や借り手が現れないケースもあるでしょう。

各対応策のメリット・デメリットをよく考え、自分のニーズに合った方法を進める必要があります。

(2)農地相続をしても税金の申告・納付は難しいケースがある

農地相続は決まったものの、農地は面積が広いので、相続税がかかってしまうと税額は高くなります。

相続税を納付するために、農地を処分する事態になれば、農業を続けられなくなってしまうことでしょう。

この場合は「相続税の納税猶予制度」が利用できます

計算式は次の通りです。

「通常の相続税評価額で計算した場合の相続税額-農業投資価格で計算した場合の相続税額=納税猶予額」

基本的に農地の相続人が一生涯にわたり農業を続ければ、納税を猶予された相続税も免除されます。

本制度を利用する場合は、所轄税務署へ相続税申告書等を提出する他に、納税猶予額と利子税に見合った担保も提供しなければなりません

農地相続に関する相談先

農地相続に関する悩みや不明な点があれば、法律の専門家や、農地相続をサポートする団体に相談してみましょう。

(1)農地相続に関する各悩みは士業専門家に相談

農地相続に関して、相続人の事情に応じ次のような士業専門家へ相談が可能です。

  • 農地相続でトラブルが発生してしまった→弁護士に相談可能。依頼すれば相手方との交渉や調停、裁判を任せられる。
  • 農地相続の登記手続きがよくわからない→司法書士に相談可能。司法書士に委任すれば登記手続き全般を任せられる。
  • 農地相続にかかる税金への不安がある→税理士に相談可能。相続税の特例に関するアドバイスや相続税の申告手続きの代行もできる。

農地相続に関する相談だけなら、都道府県・市町村の地方自治体で、無料相談が受けられるケースもあります(弁護士や司法書士が当番で対応)。

無料相談が受けられるのか自治体のホームページを確認してみましょう。

(2)農地相続のトータル・サポートを提供する団体も存在する

農地相続に関してよくわからないことだらけの場合は、農地相続を含めた相続相談ができる、「トータル・サポートサービス」を利用してみましょう。

相続に強い弁護士や司法書士、税理士のような士業専門家が、ワンストップでサポートを行う一般社団法人も設立されています。

初回の相続相談が無料の事務所もあるので、相談内容をなるべく整理してから担当者と話し合いましょう。

まとめ

農地相続ではさまざまな手続きを経る必要があります。素人ではスムーズに手続きを進められない事態も想定されます。

農地相続でトラブルが起きたり、手続きの進め方に不安を感じたりしたら、無理に自分の力だけで解決しようとせず、専門家の助言を受けながら慎重に対応しましょう。

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