相続税評価額とは?内容や評価方法を解説

相続発生後、「相続税を納める必要があるのかよくわからない」「相続税が課されるのかを確かめるため、相続財産の価値を算定したい」などという相続人は多いことでしょう。
相続税評価額の算定方法は相続財産の種類によって大きく異なります。
被相続人の遺した財産を確認し、慎重に算定する必要があります。
この記事では、相続税評価額とはどのような金額なのか、評価方法の概要について解説します。
相続税評価額とは?
相続税評価額とは相続税を計算するとき、被相続人の遺産(相続財産)を定められた方法で評価した金額です。
相続税評価額が一定の金額を超えた場合、相続税の申告・納付が必要となります。
(1)相続税評価額は国の統一的な基準に基づいた算出方法
相続税評価額は実際の財産の売買価格や固定資産税評価額と異なり、相続税法および国税庁が定めた評価方法で算出します。
評価方法は決められているので、それに従い評価すればよいものの、相続財産の種類によって評価方法は異なるので注意しましょう。
なお、決められた評価方法で相続財産を評価したら、必ず相続税がかかるわけではありません。
被相続人の負債(マイナスの財産)が不動産・金融資産(プラスの財産)を上回る場合、相続税の申告・納付は不要です。
プラスの財産が残る場合でも、相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の金額以下に収まるならば、申告・納付は不要です。
(2)相続税評価額と時価の違い
時価とはいわば「買い手に売れる値段」であり、相続財産の価値を算定する最も正確な方法といえるでしょう。
しかし、すべての相続財産を時価で算定するのは非常に困難な作業です。
そこで国税庁により、相続財産の評価基準を明示した「財産評価基本通達」が公表されています(国税庁公式サイト内の「財産評価」参照)。
相続税に関する財産評価は、通常「財産評価基本通達」に記載された評価方法で算出します。
土地の相続税評価額の計算方法
相続した土地を評価する方法は、「路線価方式」と「倍率方式」の2種類です。
- 路線価方式:路線価(国税庁が毎年7月に公表する路線ごとの1㎡あたりの金額)に基づき土地を評価
- 倍率方式:路線価が定められていない土地を評価
相続した土地がどちらの方式を利用するのかは、国税庁公式サイト内の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、所在地を確認する必要があります。
(1)宅地の評価方法
「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で宅地の所在地を確認後、以下の計算式で評価を行います。
- 路線価方式:路線価×地積(面積)×補正率
- 倍率方式:固定資産税評価額×倍率
それぞれ具体例をあげて計算してみましょう。路線価方式の場合は以下の通りです。
- 路線価表示:100千円(土地は1㎡あたり100,000円の価値)
- 土地の地積:140㎡
- 補正:1.00
路線価100千円×地積(面積)140㎡×補正率1.00=14,000千円
宅地の相続税評価額は1,400万円となります。
一方、倍率方式は以下の通りです。
- 固定資産税評価額:1,300万円
- 評価倍率:1.1
固定資産税評価額1,300万円×評価倍率1.1=1,430万円
宅地の相続税評価額は1,430万円となります。
(2)借地権の評価方法
相続した土地を貸していたまたは借りていたという場合、借地権割合も評価に加えなければいけません(「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認可能)。
次のようなケースがあれば、それぞれの評価方法で相続税評価額を算出します。
- 貸している宅地だった(貸宅地):自用地評価額×(1-借地権割合)
- 貸家が建っている宅地だった(貸家建付地):自用地の評価額×(1-借地権割合× 借家権割合×賃貸割合)
- 借りている土地だった(借地権):自用地の評価額×借地権割合
- 貸家が建っている借地だった(貸家建付借地権):自用地の評価額×借地権割合×(1-借家権割合×賃貸割合)
こちらでは貸家建付地を例に、相続税評価額を算出しましょう。
- 自用地の相続税評価額:1,400万円
- 借地権割合:70%(路線価図ではA~Gの記号で借地権割合を表記)
- 借家権割合:30%(借家権割合は原則として全国一律30%)
- 土地上の賃貸アパートの部屋数:10部屋(45㎡×4部屋、15㎡×6部屋)
- 賃貸アパートの空室状況:15㎡×2部屋
まず賃貸割合は次のように算出しましょう。「Aのうち課税時期において賃貸されている独立部分の床面積合計/当該家屋の各独立部分の床面積合計(A)」が計算式です。
賃貸アパートが満室のときの総床面積は
(45㎡×4部屋)+(15㎡×6部屋)=総床面積270㎡
ただし、相続時に15㎡の2部屋が空室なので、
(45㎡×4部屋)+(15㎡×4部屋)=240㎡
そのため、賃貸割合は0.889(240㎡÷270㎡)となります。
計算式は「自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」なので
自用地の評価額1,400万円×(1-借地権割合0.7×借家権割合0.3×賃貸割合0.889)=11,386,340円
貸家建付地の相続税評価額は1,138万6,340円となります。
(3)農地・山林の評価方法
農地や山林も相続財産として相続人が引き継ぐものの、宅地とは異なる評価方法を用いる場合があるので注意しましょう。
農地・山林が所在する環境によってそれぞれ区分や、評価方法は違ってきます。
- 純農地・中間農地・純山林・中間山林:倍率方式
- 市街地農地・市街地山林:宅地比準方式または倍率方式
- 市街地周辺農地:市街地農地価額の80%相当額
宅地比準方式とは、「対象土地を宅地としたときの価額」から、「対象土地を宅地へ転用する場合にかかる造成費」を控除した金額で評価する方法です。
具体例をあげ、相続税評価額を算出してみましょう。
- 市街地山林→宅地としたときの評価額:2,500万円
- 市街地山林→宅地に転用する場合の造成費:2,000万円
市街地山林を宅地としたときの評価額から、宅地に転用する場合の造成費を差し引くと、相続税評価額は500万円(2,500万円-2,000万円)となります。
家屋の相続税評価額の計算方法
被相続人の家屋(住居等)を評価する場合、土地のように複雑な評価方法とはなりません。
- 自用の家屋:固定資産税評価額×1.0
- 貸付用の家屋:固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
固定資産税評価額は、市区町村役場から毎年送付される「固定資産税課税明細書(納税通知書)」で記載額を確認しましょう。
例えば、家屋の固定資産税評価額が1,800万円と記載されていたならば、自用の家屋の評価額は1,800万円です。
ただし、明細書が見つからないときは、市区町村役場に申請すれば「固定資産評価証明書」(1通約400円)を取得し、評価額を確認できます。
一方、貸付用の家屋の評価額は次のように算出します。具体例をあげ、相続税評価額を算出してみましょう。
- 自用地の相続税評価額:1,800万円
- 借家権割合:30%(借家権割合は原則として全国一律30%)
- 土地上の賃貸アパートの部屋数:10部屋(40㎡×5部屋、20㎡×5部屋)
- 賃貸アパートの空室状況:20㎡×2部屋
賃貸アパートが満室のときの総床面積は
(40㎡×5部屋)+(20㎡×5部屋)=総床面積300㎡
ただし、相続時に20㎡の2部屋が空室なので、
(40㎡×5部屋)+(20㎡×3部屋)=260㎡
そのため賃貸割合は0.867(260㎡÷300㎡)となります。
自用地の評価額1,800万円×(1-借家権割合0.3×賃貸割合0.867)=13,318,200円
貸付用の家屋の相続税評価額は1,331万8,200円となります。
金融資産の相続税評価額の計算方法
被相続人の保有していた金融資産も、相続税評価額を算出しなければいけません。
ここでは預貯金や有価証券(株式等)の評価方法を取り上げます。
(1)預貯金の評価方法
被相続人の預貯金が普通預金であるか定期預金であるかで評価方法は異なります。
- 普通預金:預入残高
- 定期預金:預入残高+(既経過利息の額-既経過利子の額で源泉徴収される所得税等)
普通預金は単純に預入残高で評価するものの、被相続人の預金口座を正確に把握しておかなければいけません。
一方、定期預金の場合は既経過利息・源泉所得税等を明らかにする必要があります。
具体例をあげ、相続税評価額を算出してみましょう。
- 相続開始日の定期預金の残高:2,000万円
- 預入日~相続開始日までの日数:200日
- 満期利率:0.10%
- 中途解約利率:0.06%
まず既経過利息を計算(中途解約利率、円未満切捨)します。
定期預金の残高2,000万円×中途解約利率0.06%×200日÷365日=既経過利息6,575円
次に源泉所得税等を計算(円未満切捨)します。
既経過利息6,575円×20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)=源泉所得税等1,336円
定期預金の評価方法にあてはめると
預入残高2,000万円+(既経過利息6,575円-源泉所得税等1,336円)=2,000万5,239円
定期預金の相続税評価額は2,000万5,239円です。
(2)有価証券の評価方法
被相続人が上場株式を保有していた場合、以下の評価方法で相続税評価額を算出します。
- 相続開始日の終値
- その月の終値の平均額
- 前月の終値の平均額
- 前々月の終値の平均額
いずれかの終値や平均額のうち最も低い価額が相続税評価額となります。
株式の終値や平均額を確認するには、口座のある証券会社の取引店に相続が発生した事実を告げ、相続開始日の終値が記載された残高証明書を取得しましょう。
依頼をする際には、以下の書類を証券会社へ提出します。
- 被相続人が亡くなった事実を証明する書類:被相続人の死亡の事実が確認できる戸籍謄本、住民票除票の写し等
- 残高証明書の請求者と被相続人との関係がわかる書類:戸籍謄本、法定相続情報一覧図等
- 請求者の本人確認書類:運転免許証やパスポートのコピー等
証券会社の中には、相続開始日の終値の他、前月や前々月の月平均終値を参考資料として提出するところもあります。
一方、証券投資信託は相続開始日に解約を請求したとき、証券会社から受け取れる金額が相続税評価額です(上場されているもの:上場株式の評価に準ず)。
まとめ
相続した不動産や金融資産の評価額は、それぞれ算出方法が異なります。
各相続財産の相続税評価額の算出を、正確かつ慎重に行っていきましょう。
相続税評価額を確認する作業が難しいと感じたら、税の専門家である「税理士」に相談することをおすすめします。
税理士に相続税評価額の算出を任せれば、スピーディかつ正確に申告・納税の準備を行うことができるでしょう。