別荘の相続の手続き・相続税評価についても解説

被相続人の別荘を引き継ぐことになり、「別荘の相続手続きはどのように進めるのだろう?」「別荘の相続税評価額がわからない」などと、お悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
別荘も相続財産である以上、相続登記や相続税評価額を正確に計算し、相続手続きを進めなければいけません。
この記事では、別荘を相続する流れと相続税評価額の算定方法、別荘の名義変更について解説します。
別荘を相続する流れ
別荘を相続するまでの主な流れは以下の通りです。
- 被相続人の法定相続人が誰になるのかを確認する。
- 遺言書の確認や遺産調査を行う:遺言内容の確認や遺産調査の後、相続人が別荘の存在に気付く場合も多い。
- 相続税評価額を算定する。
- 遺言書がなく別荘を誰が相続するのか指定されていない場合、遺産分割協議を行う。
- 遺言または遺産分割協議で別荘を引き継ぐことになった人が、法務局で相続登記の手続きを進める。
- 相続税がかかる場合、相続開始の事実を知った日の翌日から10か月以内に、相続税の申告・納付を行う。
なお、別荘を誰が相続するのか遺言書で指定されていた場合、基本的に指定された相続人が引き継ぎます。
ただし、他の法定相続人全員の同意を得れば、遺産分割協議を開き、誰が別荘を引き継ぐのかについて決め直しても構いません。
別荘の相続税評価額の算定方法
他の不動産と同様、別荘の相続税評価額を正確に計算しないと、公平な遺産分割ができなかったり、相続税がかかるかどうかも判断しにくくなったりします。
相続した別荘の土地・建物は国税庁が公表している財産評価基準書や、市町村が被相続人に送付した課税証明書で評価額を確認してみましょう。
(1)別荘地の評価方法は路線価方式と倍率方式の2種類
相続した別荘地をどのような方法で評価するのかは、国税庁ホームページ「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」を参考にします。
路線価方式と倍率方式の特徴は下の表の通りです。
| 別荘地の評価方法 | 路線価方式 | 倍率方式 |
| 特徴 | 路線価(国税庁が毎年7月公表する路線ごとの1㎡あたりの金額)に基づき土地を評価する方法 | 路線価が定められていない土地を評価する方法 |
| 計算式 | 路線価×地積(面積)×補正率 | 固定資産税評価額×倍率 |
それぞれ具体例をあげ、路線価方式と倍率方式で別荘地の評価額を計算してみましょう。
【例1】別荘地を路線価方式で評価する
- 路線価表示:120千円(土地は1㎡あたり120,000円の価値)
- 土地の地積:200㎡
- 補正:1.00
路線価120千円×地積(面積)200㎡×補正率1.00=2,400万円
別荘地の相続税評価額は2,400万円となります。
【例2】別荘地を倍率方式で評価する
- 固定資産税評価額:1,600万円
- 評価倍率:1.1
固定資産税評価額1,600万円×評価倍率1.1=1,760万円
別荘地の相続税評価額は1,760万円となります。
(2)別荘の建物の評価は固定資産税評価額と同じ
別荘の建物評価額は固定資産税評価額と同じです。
被相続人へ送付された固定資産税納税通知書に同封の「固定資産税課税明細書」を確認してみましょう。
課税明細書が見つからないときは、市区町村役場窓口で「固定資産評価証明書」を取得すれば評価額がわかります。
固定資産評価証明書は、市区町村役場にて窓口申請・郵送申請できます。
相続人が申請するとき、取得に必要な書類は以下の通りです。
- 申請書:市区町村役場窓口またはホームページで取得可能
- 申請者の本人確認書類:マイナンバーカードや運転免許証等
- 別荘所有者(死亡)との相続関係がわかる書類:戸籍謄本(被相続人の死亡記載)、除籍謄本等
- 証明手数料:150~400円程度
(3)別荘の相続税対策は難しい?
別荘が建っている土地には、相続税の軽減が可能な「小規模宅地等の特例」が原則として適用されないので注意が必要です。
本特例は被相続人が住居に利用していた土地等で、かつ一定の要件を満たすと、土地の部分の評価額を最大80%減額できる制度です。
別荘は保養を目的とした建物であり、生活の基盤となっている居住用家屋とはいえず、本特例の適用外となります。
ただし、被相続人が別荘を他人に賃貸していたときは、「貸付事業用宅地等」として50%の評価減が適用可能です。
被相続人の別荘だったとしても、どのように使用していたのかをよく確認してみましょう。
相続した別荘の名義変更について
被相続人の別荘を相続した人は、速やかに相続登記の手続きを進める必要があります。
別荘の相続登記(名義変更)の手続き時に提出する書類、かかる費用について説明しましょう。
(1)別荘の名義変更に必要な書類
別荘の相続登記(名義変更)手続きを進めるときは、主に以下のような書類が必要です。
- 登記申請書:法務局の窓口、ホームページで取得可能
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(改製原戸籍・除籍謄本):被相続人の本籍地の市区町村役場で取得。
- 被相続人の住民票除票または戸籍の除附票:被相続人の住所地の市区町村役場で取得。
- 相続人全員の現在の戸籍謄本:各相続人の本籍地の市区町村役場で取得。
- 別荘を相続した人の住民票:相続人の住所地の市区町村役場で取得。
- 固定資産評価証明書:不動産の所在地を管轄する市区町村役場や都税事務所から取得
- 遺言書:遺言がある場合
- 遺産分割協議に関する書類:遺産分割協議を行った場合、相続人全員が実印を押印した遺産分割協議書、相続人全員の印鑑登録証明書(各相続人の住所地の市区町村役場で取得)
- 委任状:代理人が申請する場合
- 相続関係説明図:法務局から戸籍謄本等を返却してもらいたい場合に作成
- 法定相続情報一覧図:戸籍謄本等の提出を省きたい場合に準備
提出書類は、相続した別荘の住所地を管轄する法務局での窓口申請や郵送申請の他、オンライン申請も可能です。
(2)別荘の名義変更にかかる費用
別荘の相続登記に関する費用は、提出する証明書類の手数料だけではありません。下の表を参考にしてください。
| 項目 | 金額 |
| 戸籍謄本(除籍謄本) | 1通450~750円 |
| 住民票の写し(除票・戸籍の附票) | 1通200~300円 |
| 登記簿謄本(登記事項証明書) | 1通600円 |
| 固定資産税評価証明書 | 1通300円前後 |
| 登録免許税(土地・建物) | 土地・建物それぞれ税額0.4% |
| 合計(目安) | 数万円~10万円程度 |
登録免許税は別荘(建物)・別荘地の固定資産税評価額のそれぞれ0.4%分を納税します。
例えば、固定資産税評価額がそれぞれ1,200万円なら税額は次の通りです。
別荘(建物)・別荘地の固定資産税評価額:(1,200万円+1,200万円)×0.4%=9.6万円
登録免許税は9.6万円です。
なお、司法書士に別荘の相続登記を依頼した場合、報酬(6万〜10万円程度)を支払う必要があります。
司法書士事務所ごとで自由に報酬が決められており、依頼時に報酬がどれくらいになるのか見積もりを依頼しましょう。
(3)相続登記は義務化されている
被相続人の住居の他に別荘も相続登記が義務となっています。
2024年4月1日以降に別荘を相続した場合は、原則として相続により不動産取得を知った日から3年以内に登記しなければなりません。
一方、2024年4月1日以前に別荘を相続したものの未登記であれば、原則として2024年4月1日から3年以内に手続きを済ませましょう。
期限内に正当な理由もなく登記手続きをしないままであれば、10万円以下の過料が科される可能性もあります。
相続発生後、相続人が取り得る別荘に関する対応
相続発生後に別荘を誰が引き継ぐのか遺言書で確認したり、遺産分割協議で取り決めたりします。
ただし、別荘を相続したくないなら、相続を放棄する方法も検討してみましょう。
(1)別荘をそのまま所有する
別荘をそのまま相続人が引き継いで活用します。主に以下のような活用方法が考えられます。
- 被相続人と同様に保養のため別荘を利用する
- セカンドハウスにする:第二の自宅として月に1回以上、定期的に居住する(セカンドハウスとして認定されれば税制上の優遇が受けられる可能性あり)
- ゲストハウス:宿泊施設として別荘を提供する方法で、利用客からの収入が見込める
別荘を引き継いだ相続人のニーズに合わせて、柔軟に活用方法を検討してみましょう。
(2)別荘を処分する
「別荘を所有して、ずっと維持費や税金を支払い続けるのは嫌だ」と思ったら、別荘の売却も有効な方法です。
別荘を売却したいなら住宅・土地と同様に、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。
まず相続した別荘のある地元の不動産会社に相談してみましょう。
不動産会社の担当者は別荘地周辺の相場や需要に詳しい他、より正確な査定を行ってくれます。
また、別荘の買取販売を専門に手がける不動産会社へ、買取の申込を行うのも良い方法です。
別荘の知識はもちろん購入希望者を多く抱えていて、売買契約をスムーズに進められる可能性があります。
(3)別荘がいらないなら相続放棄する
被相続人の別荘がいらない場合、「相続放棄」を検討してみましょう。
相続放棄が認められれば、被相続人の別荘はもちろん相続財産・負債(借金)すべてを放棄できます。
相続放棄をするときは、自己のため相続の開始があった事実を知ったときから3か月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立てます。
申立て(申述)を行うとき提出する書類は主に次の通りです。
- 相続放棄申述書:裁判所公式サイトから取得。
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票:除票は住所地の市区町村役場で取得、戸籍附票は本籍地の市区町村役場で取得。
- 申述人(相続放棄したい人)の戸籍謄本:本籍地の市区町村役場で取得。
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本(除籍、改製原戸籍):本籍地の市区町村役場で取得。
ただし、相続放棄をすれば別荘だけではなく、他の相続財産も相続できなくなるので注意しましょう。
また、相続放棄は放棄をしたい人が単独で申立て(申述)できる制度であるものの、他の相続人の遺産分割の範囲や、相続人の順位に影響を与えるおそれがあります。
そのため、相続放棄の申立て前に他の相続人へ放棄する旨を伝えておきましょう。
まとめ
別荘の相続手続きは複雑で、場合によっては他の相続人とトラブルが発生するおそれもあります。
支障なく相続登記手続きを進めたいなら司法書士に、他の相続人とトラブルが起きた場合は弁護士に相談し、アドバイスやサポートを求めるとよいでしょう。