遺言書なしの遺産相続手続きの流れと注意点

被相続人が遺言書を残さなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を進める必要があります。
被相続人の遺言書が見つからず、「遺産相続をどのように決めたらよいかわからない」「遺産分割協議はどうすればよいのだろうか」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、遺言書が残されていない場合の遺産相続手続きの流れや注意点などについて解説します。
遺言書が残されていない場合の遺産相続の進め方
遺言書が残されていない場合、基本的に以下の方法で遺産相続を進めていきます。
- 法定相続分で分ける
- 遺産分割協議を行う
それぞれの相続手続きについて説明します。
(1)法定相続分で分ける
相続人が一人の場合、もちろん遺産分割協議は不要となり、被相続人の遺産の全てを取得可能です。
一方、遺言書なしで法定相続人が2人以上であれば、基本的に遺産分割協議が必要です。
ただし、例えば法定相続人が被相続人の配偶者・子1人だけで、被相続人の遺産がわずかな場合(例:不動産資産もなく、遺産がわずかな預貯金のみの場合など)、「民法の定める法定相続分(民法第900条)で分ける」と口頭で決めてもかまいません。
被相続人がお金を銀行に預けていたとしても、銀行所定の「相続手続き依頼書」に相続人全員が署名・押印をして提出すると、遺産分割協議書なしで預金の相続はできます。
(2)遺産分割協議を行う
遺言書なしで法定相続人が複数いるなら、遺産分割協議で相続手続きを進めていく必要があります。
協議では法定相続人の一部から不満が出ないよう、公平に遺産分割内容を取り決めていきましょう。
また、遺産分割協議で取り決めた内容は書面化しておくのが一般的です。
例えば被相続人の建物の名義変更(相続登記)をするとき、法務局から遺産分割協議書が要求されます。
相続登記や相続税申告等の手続きが必要なときは、遺産分割協議書を作成しておきましょう。
遺言書なしで遺産相続を行う流れ
遺言書がない場合の遺産相続は以下の流れで行います。
- まず遺言書の有無を確認する
- 相続人について調査する
- 遺産分割協議を行う
それぞれのステップに分けて説明しましょう。
(1)まず遺言書の有無を確認する
被相続人(遺言者)の作成した遺言書があるかどうか、まずは確認してみましょう。
遺言書は主に3種類あり、保管場所はそれぞれ異なります。下の表を参考にしてください。
| 遺言書 | 特徴 | 保管場所 |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が自筆で作成する遺言。 |
・自宅等を確認する→見つけたら家庭裁判所で検認。 ・自筆証書遺言保管制度を利用しているケースも想定し、法務局(遺言書保管所)で確認する(検認不要)。 |
| 秘密証書遺言 | 遺言の存在は明確にしつつ、内容自体は秘密にできる遺言。 | 自宅等を確認する→見つけたら家庭裁判所で検認。 |
| 公正証書遺言 | 遺言者の意思を直接確認し、公証人が法律に従って作成する遺言。 |
最寄りの公証役場で「遺言検索の申出」を行い、「公正証書遺言の検索システム」で確認する(検認不要)。 |
自筆証書遺言は、自宅等で保管する場合と、自筆証書遺言保管制度を利用して法務局に保管する場合があるので注意しましょう。
(2)相続人について調査する
遺言書がなければ基本的に法定相続人のみで遺産を分割します。
そのため、被相続人の法定相続人にあたる人物を特定する必要があります。
法定相続人の範囲は被相続人の配偶者と血族であり、配偶者は常に該当し、血族は優先順位で判断されます。
血族の優先順位は以下の通りです(民法第887条、889条)。
- 第一順位:子(代襲相続の場合は孫やひ孫)
- 第二順位:両親等の直系尊属
- 第三順位:兄弟姉妹(代襲相続の場合は甥・姪)
法定相続人になれる人物は、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を収集すれば確認できます(被相続人の本籍地の市区町村役場で取得)。
(3)遺産分割協議を行う
法定相続人が誰かを確認した後、法定相続人の全員が参加し遺産分割協議を行います。
遺産分割協議で取り決めた後は、「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員の署名・押印をしましょう。
なお、遺産分割協議書は郵送により、相続人全員の署名・押印をする方法も可能です。
郵送時には署名・押印の漏れを防ぐため、説明用紙を同封して返送期限も明記しておきましょう。
郵送の方法は書留や追跡番号付きのサービスを利用すれば記録に残ります。
相続人全員が実際に集まることが難しい場合や、より詳細に遺産分割の話し合いをしたいときは、Zoom等を利用したオンラインによる協議も有効な方法です。
遺言書がない場合に発生するトラブル
遺言書がないと以下のような事態が発生する可能性もあります。
- 遺言書がないため、なかなか相続手続きが進まない
- 遺産分割協議後に想定外の相続人があらわれた
それぞれのケースについて説明します。
(1)遺言書がないため、なかなか相続手続きが進まない
被相続人が遺言書を作成していたなら、法定相続人等は遺言内容に従って遺産を取得するのが一般的です。
一方、遺言書がなく遺産分割協議を行う場合、法定相続人の一部が納得せず、なかなか協議がまとまらない事態も想定されます。
その場合、以下のように柔軟な遺産相続の取り決め方法を検討してみましょう。
- 相続発生前に特定の法定相続人が被相続人から多額の資金援助(例:婚姻のための贈与等)を受けていた→生前贈与分を特別受益として扱い、贈与された金額を相続財産に加えた上で各人の相続分を算出する(いわゆる「特別受益の持ち戻し」)
- 法定相続人だけで協議せずに、弁護士に調整役を依頼する→弁護士は法律の専門知識や交渉能力を活かし、法定相続人の合意を目指す
それでも協議がまとまらない場合は家庭裁判所に場所を移し、和解を図る方法もあります。
(2)遺産分割協議後に想定外の相続人があらわれた
遺産分割協議に参加した法定相続人の合意が得られて協議書を作成した後に、想定外の法定相続人があらわれる可能性もあります。
例えば、被相続人の前婚の子があらわれ、自分の遺産相続分を請求するケースです。
前婚の配偶者は離婚により法定相続人とならないものの、被相続人と前婚の配偶者との間に子がいる場合、その子は相続権を有しています。
前婚の子から遺産相続分を請求された場合、遺産分割協議はやり直しとなるので注意しましょう。
このようなトラブルを避けるためには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本を収集し、慎重に離婚歴の有無などを確認する必要があります。
遺言書がない場合の対処法について
協議で他の法定相続人と揉めてしまい遺産分割の取り決めが難しい場合、調停で和解を図る方法や、自分が遺産相続しないという方法も検討してみましょう。
いずれの場合も家庭裁判所への申立てが必要です。
(1)遺言書がなくてトラブルになった場合の対処法
遺産分割について法定相続人間で話し合いがまとまらなかったときは、家庭裁判所で「遺産分割調停」「遺産分割審判」の手続きが可能です。
遺産分割調停では調停委員が当事者双方から事情を聴き、必要に応じて資料等の提出を求め、事情を把握し、解決案の提示や助言を行います。
遺産分割調停を申立てるときは、次の書類を相手方のうち一人の住所地または当事者が合意で定めた家庭裁判所に提出します。
- 申立書:1通およびその写しを相手方の人数分揃える
- 事情説明書(遺産分割)・進行に関する照会回答書(遺産分割)
- 被相続人の出生時~死亡時までの戸籍謄本(除籍・改製原戸籍):本籍地の市区町村役場で取得(1通450~750円)
- 相続人全員の戸籍謄本:本籍地の市区町村役場で取得(1通450円)
- 相続人全員の住民票(住所地の市区町村役場で取得、1通200円)または戸籍附票(本籍地の市区町村役場で取得、1通300円)
- 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書および固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券の写し等)
- 収入印紙:1,200円分
- 連絡用の郵便切手
なお、ケースに応じて裁判所から追加書類を要求される可能性があるので、指示に従い書類を提出しましょう。
紛争当事者が遺産分割内容に合意したら、裁判所が「調停調書」を作成します。一方、調停不成立の場合は自動的に「遺産分割審判」が開始され、裁判官が判断を下します。
(2)相続に関わりたくない場合は相続放棄を検討
「他の法定相続人と大きな亀裂が入ってまで遺産を相続したくはない」と考えているなら、「相続放棄」の申述を検討してみましょう。
相続放棄とは、申述人が相続する権利・義務を一切放棄する方法です。
家庭裁判所から相続放棄が認められると、申述人は最初から被相続人の相続人でなかったことになります。
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に提出する基本的な書類は以下の通りです。
- 相続放棄の申述書
- 申述人の戸籍謄本:本籍地の市区町村役場で取得(1通450円)
- 被相続人の住民票除票(最後の住所地の市区町村役場で取得、1通300円)または戸籍附票(本籍地の市区町村役場で取得、1通300円)
- 収入印紙:申述人1人につき800円分
- 連絡用の郵便切手
なお、申述人は被相続人との関係で収集する書類に違いが出てきます。例えば被相続人の戸籍謄本を集める場合は以下のとおりです。
- 被相続人の配偶者や子が申述人の場合→被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属(父母等)や兄弟姉妹が申述人の場合→被相続人の出生から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
それぞれのケースに合わせた書類の収集が必要となります。
また、相続放棄を行う場合、次のような条件や制限がある点にも留意しておきましょう。
- 申述できるのは、自己のため相続の開始があった事実を知ったときから3か月以内
- 相続放棄後は、被相続人の遺産相続は不可能(ただし、申述人が被相続人の死亡保険金受取人の場合、保険金受取は可能)
- 相続放棄後、原則として撤回不可能(他の相続人から放棄を脅迫された、騙されて放棄した等の場合、取り消せる可能性あり)
まとめ
遺言書のない遺産相続手続きでは法定相続人同士で揉めたり、想定外のトラブルが発生したりするおそれもあります。
相続手続きが進まない場合は、無理に法定相続人だけで解決しようとせず、相続に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
弁護士から有益なアドバイスを得たり、代理人を任せたりすれば、円滑に相続手続きを進められるでしょう。